東京オペラシティ アートギャラリー当館収蔵の寺田コレクションは、東京オペラシティビルの共同事業者であった寺田小太郎氏(1927-2018)が、篤志により蒐集、寄贈したものである。その内容は、現代美術史を横目で見つつも、その流れのみに捉われない、一人のコレクターの透徹した審美眼を感じさせる。本収蔵品展では、寺田氏のコレクションの多くを占める抽象に焦点を当てる。
具体的な形態を排し、色、形、線の造形要素で芸術の純粋性を追求する抽象絵画は、1910年代初頭にヴァシリー・カンディンスキー(1866-1944)やピート・モンドリアン(1872-1944)が始めたとされ、近年の調査では女性画家のヒルマ・アフ・クリント(1862-1944)が彼らを先駆けていたといわれる。抽象とは、目に見えない感情や概念を形象化する手法であるが、ひとくちに抽象といってもさまざまな作風と傾向がある。
本収蔵品展では、人の姿や風景から有機的形態を抽出する抽象と、可能な限り表現を削ぎ落として純粋な概念のみの抽象を試みる作品を、2室に分けて紹介する。1室目では、難波田史男や赤塚祐二、中西夏之らを中心に、色彩溢れる感情や独自の詩情に満ちた抽象を、2室目では、菅井汲や松谷武判、白髪一雄らを中心に、凛とした緊張感や豊かな無を感じさせる抽象を展開する。
展示室で歩を進めるに従い、豊かな色彩に満ちた世界から厳しいモノクロームの世界へと徐々に移行していくだろう。寺田氏が志向した抽象は、欧米の抽象とは異なる独自のポエジーや東洋的精神を目指した、アジアにおける抽象の模索のさまざまなあり方を観せてくれるはずである。
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