展覧会キーヴィジュアル
東京・丸の内にある三菱一号館美術館では、「“カフェ”に集う芸術家―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」が開催される。会期は6月13日〜9月23日。
いまも昔も人々の暮らしとともにあるカフェ。19世紀後半のパリでは、芸術家がカフェに集い、そこでの出会いや議論を通じて新しい芸術が生み出されていった。また、カフェやキャバレーに貼られたポスターも、近代都市を彩る重要な要素のひとつ。アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは歌手や踊り子、行き交う観客の姿を鮮やかに描き、近代都市の躍動感を表現した。

本展は、“カフェ”をキャバレーなども含む広い意味でとらえ、印象派からフィンセント・ファン・ゴッホ、ロートレック、ナビ派、パブロ・ピカソまで、芸術家が “カフェ” という場からどのように触発され、作品を生み出したかを紹介する。近代美術の揺籃(ようらん)の場となった“カフェ”は、これまで展覧会のメインテーマとして大きくとりあげられることはなかったものの、19世紀フランス美術を理解するうえで欠かせない視座のひとつだ。

19世紀のパリ美術アカデミーにおいて、絵画の主流は歴史や神話の場面を描く「物語画」であった。しかし、エドゥアール・マネや印象派の画家たちは、詩人シャルル・ボードレールの思想に影響を受けながら、街の風景や劇場の踊り子、カフェでお酒を前にして佇む人などを題材とした絵画を制作する。こうした「現代生活」のいち場面を描き出す作品は、本展のひとつの注目ポイントだ。

現在のクリシー大通り9番地にあった「カフェ・ゲルボワ」は、マネを筆頭に、後に印象派と呼ばれる若き芸術家や、新進気鋭の文学者が集った場所だ。エドガー・ドガ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、ポール・セザンヌ、クロード・モネなどの芸術家も、飲み物やタバコを片手に際限なく意見をかわし合い、新たな芸術運動を生み出していく。

さらに、ノートルダム大聖堂と並んでパリの都市風景を象徴する「ムーラン・ルージュ」をはじめとした、キャバレーも重要な創造源となった。ダンスホールの出しものを華やかに宣伝するジュール・シェレや、その光と影を巧みに表現したロートレックのポスターは、当時のパリを代表する歓楽街のイメージを形成する。
1891年にロドルフ・サリスが開店した「シャ・ノワール」は、演劇や詩の朗読、作品の展示といった芸術的な活動を前面に押し出した初めてのキャバレーだ。ここで演じられたリヴィエール考案の影絵芝居は、ピエール・ボナールやフェリックス・ヴァロットンらナビ派の画家に影響を与えることとなる。

本展におけるもうひとつの注目ポイントは、パリの“カフェ”文化がスペイン・バルセロナへと波及していく過程である。ルノワールやゴッホも描いた、パリ郊外の屋外ダンスホール「ムーラン・ド・ラ・ガレット」には、バルセロナ出身のふたりの画家、サンティアゴ・ルシニョル、ラモン・カザスが滞在していた。

ルシニョルやカザスをはじめとする4人の画家によって結成された芸術家グループ「クアトラ・ガッツ」は、パリの前衛的なキャバレー「シャ・ノワール」に倣い、グループと同名のカフェを開店する。芸術家や知識人が集う文化拠点として人気を博した同店には、若き日のピカソも足繁く通い、のちの創作につながる大きな刺激を受けた。

会場では、「青の時代」以前のピカソが、ドガ、ロートレック、ルノワールらの影響を受けて制作した作品群や、日本初公開となるルシニョルの《カフェ・デ・ザンコエラン》、カザスが「ムーラン・ド・ラ・ガレット」に滞在していた際の作品《マドレーヌ》なども展覧される。パリという19世紀美術の中心地で醸成された“カフェ”文化が、いかにしてバルセロナへと移植され、新たな表現へと展開していったのか。そのダイナミズムを体感できるような構成となりそうだ。

19世紀後半〜20世紀初頭の西洋絵画を担った画家たちが、激しい議論を重ね、ときに異質な感性と交わることで新たな発想を生み出していった“カフェ”という場。本展は、その創造の舞台に改めて着目し直すような展覧会となる。