公開日:2026年1月23日

「中村宏 アナクロニズム(時代錯誤)のその先へ」(静岡県立美術館)レポート。自身の表現を更新し続けた「絵画者」の軌跡とは?

今月死去した画家の中村宏の大規模回顧展。会期は1月20日~3月15日(撮影:灰咲光那[編集部])

中村宏 女学生に関する芸術と国家の諸問題 1967-97

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今年逝去した画家の大回顧展

基地闘争などを対象にした「ルポルタージュ絵画」で日本の戦後美術に名を刻んだ画家の中村宏が93歳で永眠したのは今年1月8日。その大規模回顧展「中村宏 アナクロニズム(時代錯誤)のその先へ」が、静岡県立美術館で3月15日まで開催されている。企画担当は、同館上席学芸員の川谷承子と植松篤。

1932年に静岡県浜松市に生まれた中村は、50年代半ばに社会的事件の記録と伝達を目的とする「ルポルタージュ絵画」の作家として注目された。その後も、「観念絵画」「観光芸術」「タブロー機械」など社会や美術表現に対する批評性に富んだ独自の方法論を打ち出し、具象絵画の可能性を追求。90歳を目前にして自身の戦争体験に基づく「戦争記憶絵図」の制作を始めるなど、晩年まで精力的に活動した。

会場入り口に設置された追悼台

生前から準備が進められた本展は、全国の美術館と個人所蔵者から借用した250点を超す絵画と関連資料が一堂に集結。5章構成で70年に及ぶ制作の軌跡を紹介する。中村の回顧展は過去にも開催されたが(2007年の東京都現代美術館名古屋市美術館、2015年の浜松市美術館など)、初期から最晩年までの代表的作品を網羅する本展は、画家の全体像を総覧できる貴重な場となる。

なお本展タイトルの「アナクロニズム」の言葉は中村が選んだもの。中村は自らを「絵画者」、絵画の物質的側面を強調して「タブロー」と呼ぶなど独自の言語感性を持っていた。担当の川谷は「通常は時代遅れや反時代性を意味するアナクロニズムを、中村さんは肯定的に使っていた。素材や手法の新奇性に価値を置く現代美術のモダニズムに抵抗し、絵画という営為を信じ続ける姿勢を示す言葉だと考えられる」と話す。

会場風景
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