シモキタ秋の名物・巨大な月が今年も登場! 「ムーンアートナイト下北沢2025」レポート。今年は巨大な猫ちゃん、萩原朔太郎をモデルにした没入型作品も

会期は9月19日〜10月5日。詩人・萩原朔太郎をモデルに街を巡る「イマーシブシアター『猫町』」を初開催

ルーク・ジェラム Museum of the Moon

下北沢がアートとカルチャーで賑わう約2週間

9月16日〜10月1日まで、東京・下北沢の街を舞台に、「月」をテーマにしたアートフェスティバル「ムーンアートナイト下北沢 2025」が開催される。2022年の初開催以来、今年で4回目を迎える。主催は小田急電鉄株式会社、下北沢商店連合会、スタートバーン株式会社。

シモキタが持つ多様なカルチャーやコミュニティをアートでつなぎ、これまで以上に“文化の交差点”として、新たな価値や賑わいを創出したいという願いからスタートした本フェスティバル。インパクト抜群の巨大「月」アートは開催される度にSNSで大きな話題になるなど、世代を問わず人々が集い、地域の魅力を発見する恒例イベントとなっている。

圧巻の「月」巨大アート

本フェスティバルのアイコン的存在、アーティストのルーク・ジェラム(Luke Jerram)による直径7mの月を模した作品《Museum of the Moon》は、今年も「下北線路街 空き地」に登場。遠くから見ても圧倒的な存在感で、その下に立てば月のクレーターの細部まで緻密に表現されていることがわかるだろう。

ルーク・ジェラム Museum of the Moon

今年は大きな猫も登場!

今年初展示となる作品も見逃せない。

「BONUS TRACK」隣接駐車場には、イギリス出身のアーティスト、ネリー・ベン・ハユン=ステパニアン(Nelly Ben Hayoun-Stépanian)が手がけた《Schrödinger's Cats》が日本で初めて展示される。光り輝く巨大な猫に、思わず目が惹きつけられること間違いなし。じつは量子力学における思考実験「シュレディンガーの猫」をモチーフに、天文学や宇宙環境問題、宇宙とのつながりなどを表現している。「月」をテーマにしたフェスティバルにぴったりの、宇宙の存在を感じさせる作品だ。

ネリー・ベン・ハユン=ステパニアン Schrödinger's Cats
ネリー・ベン・ハユン=ステパニアン Schrödinger's Cats

また、アーティストの森貴之は、通常は入場できない東北沢駅屋上(改札外)を舞台に作品《Uranometria (ウラノメトリア)》を発表。「月」をテーマにしたアートイベントということで、「星座」をモチーフに新作を制作した。

天球状のドームには、星座のイメージをかたどった立体が吊られており、紫外線に反応する糸によって光っている。「星座は古代メソポタミア発祥で、星空を見ながら物語を紡いでいくという行為を人類は数千年に渡って行ってきた。人類が紡いできた想像力の軌跡を、現代の3Dプリンターなどのテクノロジーで可視化し、現実と想像の世界の狭間のような空間を作りました」と作家。鑑賞者はドームのなかで幻想的で美しい世界を体験できる(鑑賞は有料)。

森貴之 Uranometria (ウラノメトリア)
森貴之 Uranometria (ウラノメトリア)
東北沢駅

没入型エンターテイメント「イマーシブシアター『猫町』」

今年の新しい企画として、イマーシブシアターカンパニー・daisydozeの新作没入型エンターテイメント「イマーシブシアター『猫町』」が初開催される(有料、土日祝のみ)。期間は9月20日〜10月5日。

「イマーシブシアター『猫町』」

『猫町』というのは、下北沢周辺を終の住処とした詩人の萩原朔太郎の作品名に由来する。本作は、参加者が街や会場内を巡り、目の前で演者のパフォーマンスを観ながら、物語の一部として作品に参加するというもの。下北沢駅前広場から世田谷代田駅までが舞台となる。観客はまず、自身のスマートフォンにてトラベルオーディオガイドアプリ・ON THE TRIPを使用。語りかけられる主人公の声に導かれるようにして街を歩くと、パフォーマーが現れ、さらに深い世界へと参加者を誘う。目の前で繰り広げられるパフォーマンス。いつの間にか、下北沢という目の前の現実と幻想が入り混じった物語の世界に進んでいくことになる。ここでしか味わえない、不思議で特別な体験になるだろう。作・演出は竹島唯。出演者には、いのまいこのほか、声の出演を務める森準人が名を連ねる。体験時間は約45分。

「イマーシブシアター『猫町』」公演の様子
「イマーシブシアター『猫町』」公演の様子

テーマソングと街歩きコンテンツ

ほかにも今年のフェスティバルには新しい企画がいっぱい。

シモキタカルチャーのひとつ「音楽」ならではの企画として、地元で活動するアーティスト・永原真夏がムーンアートナイト下北沢のために書き下ろしたテーマソング「ムーンライト」を制作した。月の光を記憶や願いの象徴として描き、変わりゆくシモキタのなかで変わらない風景や思いを詰め込んだ楽曲は、期間中に地域商店街で放送される。また9月26日(金)に下北線路街 空き地にてライブを開催。

永原真夏

またこの街の音楽文化を長年支えてきた「下北沢SHELTER」「下北沢BASEMENTBAR」などの地域ライブハウスによる、「月」をテーマにした音楽ライブやイベントも開催される。

さらに街歩きを楽しむには、Webアプリ「FUN FAN NFT」を活用した「街歩きコンテンツ」もおすすめだ(有料)。展示作品の解説に加え、街のスポットを巡りながら、音楽や演劇、古着など、シモキタカルチャーにより深く触れることができる音声コンテンツを聞くことができる。

またエリア内の施設や店舗が一体となり、アート展示、ワークショップ、グルメ、映画など、様々なジャンルで「月」や「ウサギ」をテーマにした約100の企画が展開される。

BONUS TRACKにあるYOYOのコラボメニュー
かわいいウサギがあしらわれたコラボドリンク
BONUS TRACK GALLERY 2

下北沢駅周辺の再開発と様々な取り組みが生んだ相乗効果

本イベントの出発点には、小田急電鉄による下北沢周辺地域の再開発がある。東北沢駅から世田谷代田駅の地下化に伴い、全長約1.7kmの路跡地を開発して新しい“街”を生み出すという「下北線路街」が舞台になっているからだ。

報道内覧会で、小田急電鉄の橋本崇は、本アートイベントを含む取り組みや、下北沢周辺の再開発事業の意義を語った。

「下北線路街はコロナ中に開業しました。乗降客数をコロナ前と後とで比較すると、全70駅中6駅だけが乗降客数が上がっている。そのうち3駅が、世田谷代田駅、下北沢駅、東北沢駅です。こうした成果は、商店をはじめとする街の様々な取り組みによるもの。乗降客数が増えれば我々の収入が上がるので、そのぶんを街に還元していきたいと考えています」

報道内覧会にて。左から、橋本崇(小田急電鉄株式会社 まちづくり事業本部 エリア事業創造部長 課長)、長沼洋一郎(下北沢商店連合会会長)、施井泰平(スタートバーン株式会社 代表取締役社長)、森貴之(アーティスト)、近藤香(daisydoze)、竹島唯(daisydoze)

アートを見て、美味しいものを食べ、音楽に耳を澄まし、街全体を身体で感じる。開幕直後はまだ少し暑さが残るが、「ムーンアートナイト下北沢 2025」で爽やかな秋をひと足さきに楽しんではいかがだろうか。

入場料:無料(一部有料)
※ 東北沢駅屋上への入場をはじめ、本イベントをさらにお楽しみいただける有料チケットも発売中。詳細は以下へ。
https://eplus.jp/sf/word/0000171883

公式サイトhttps://moonartnightfes.com/

福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)

福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。