公開日:2025年9月25日

「円山応挙―革新者から巨匠へ」(三井記念美術館)レポート。伊藤若冲との合作が東京初公開! 「革新者」から「巨匠」へと至る応挙の軌跡とは

会期は9月26日~11月24日。18世紀京都画壇の革新者であり、当代随一人気画家の傑作が一堂に

円山応挙 重要文化財 遊虎図襖(16面の内)  天明7(1787) 香川・金刀比羅宮

“ヴァーチャル・リアリティ”のような迫真の表現

東京の三井記念美術館「開館20周年特別展 円山応挙―革新者から巨匠へ」が 9月26日~11月24日に開催される。監修は山下裕二(明治学院大学教授)

会場風景

18世紀の京都画壇を席巻し、多くの弟子を抱えた巨匠として円山四条派を形成した円山応挙。本展はそんな応挙が「革新者」から「巨匠」になっていくさまを、重要な作品を通して紹介する。

監修者の山下裕二のステートメントによると、応挙は従来より江戸時代を代表する画家として確固たる地位を築いているものの、近年は伊藤若冲曽我蕭白といった「奇想の画家」(美術史家・辻惟雄による定義)の人気に押され気味だという。「しかし、応挙こそが、18世紀京都画壇の革新者でした。写生に基づく応挙の絵は、当時の鑑賞者にとって、それまで見たこともないヴァーチャル・リアリティーのように、眼前に迫ってきたのです」「応挙の絵は、21世紀の私たちから見れば、「ふつうの絵」のように見えるかもしれません。しかし、18世紀の人たちにとっては、それまで見たこともない『視覚を再現してくれる絵』として受けとめられたのです」(ステートメントより)とその重要性を強調。本展ではまさに、「眼前に迫ってくる」応挙の画力を体験できる絶好の機会となっている。

会場風景

モフモフの虎が可愛すぎる……三井家が援助したこんぴらさんの襖絵

本展の見どころのひとつは、重要文化財《遊虎図襖》と《竹林七賢図襖》。これらの襖絵は、三井家が援助して応挙に描かせ、香川・金刀比羅宮に奉納したという同館にとってゆかりの深いもの。

円山応挙 重要文化財 遊虎図襖(16面の内)  天明7(1787) 香川・金刀比羅宮
円山応挙 重要文化財 遊虎図襖(16面の内)  天明7(1787) 香川・金刀比羅宮

《遊虎図襖》では応挙は虎の毛皮を見て描いたそうで、そのモフモフっぷりに注目したい。

会場風景
円山応挙 重要文化財 竹林七賢図襖 寛政6(1794) 香川・金刀比羅宮

傑作、国宝《雪松図屏風》

さらに本展では、応挙の傑作、国宝《雪松図屏風》が展示される。絶妙な構図によって表現された、陽光にきらめく新春の雪景色の美しさ。応挙の「巨匠」たる技を堪能したい。《雪松図屏風》の展示期間は9月26日〜10月26日、11月11日〜24日。そのあいだの10月28日〜11月10日には、本作の代わりに根津美術館蔵の重要文化財《藤花図屏風》が展示される。

円山応挙 国宝 雪松図屏風 江戸時代・18世紀 三井記念美術館 【展示期間:9月26日〜10月26日、11月11日〜24日】
山下裕二(明治学院大学教授)

若冲と応挙、ふたりの巨匠の合作を披露

2024年10月、山下裕二と大阪中之島美術館が都内で会見を開き、同じく京都で活躍した伊藤若冲と円山応挙の初の合作屏風が見つかったと発表。大きな話題となったこの二曲一双屏風は、今年6月〜8月に大阪中之島美術館「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!」で披露されたばかりだ。そしてこのたび、ついに本展にて、東京初披露が叶った。

左:伊藤若冲 竹鶏図屏風 寛政2(1790)以前 個人蔵 右:円山応挙 梅鯉図屏風 天明7(1787) 個人蔵 

近所に住み、当時の京都では人気No.1、No.2の座を占めていたと言われる応挙と若冲。本作は両者が意気投合して描いたものではなく、依頼主がふたりに描かせたと考えられている。応挙《梅鯉図屏風》では写実的に描かれた鯉や、画面の奥行きを含む立体的な表現に刮目したい。

「応挙が若冲より17歳年下ですから、先に仕上げたと思われます。大先輩との競作ですから、いくぶん控えめに描いている。だけど視線を左の若冲のほうに誘導するようになっている。この絵の立体感は、当時の人にとっては初めて見る3Dのように感じられたと思います。そして若冲のほうは、思いっきり描いています」(山下)

山下によると、大阪での展示から今回までのあいだに新事実も明らかに。大正4年に博覧会に出品されていたという(詳細は本展のカタログに解説あり)。

会場風景

コロコロのわんこに、威嚇するイタチ……動物好きにもたまらない展示

ほかにも本展には、様々な様態の人物像や、温かなまなざしが注がれた生き物の絵など、見どころがたくさんある。コロコロと子犬が転がる《雪柳狗子図》は、犬好きに限らず目尻が下がりそうだ。

会場風景
会場パネル

筆者のお気に入りはイタチを描いた作品。その場でスケッチしたものを後日清書したものとみられる。牙の生え方なども丹念に観察されており、複数の角度から顔が描かれている。「シャーッ!」という声が聞こえてきそうな威嚇顔もなんともかわいい。

円山応挙 鼬図 江戸時代・18世紀 本間美術館
シャーッ!

足のない幽霊は応挙から始まった?

応挙の影響力を物語る展示も興味深い。3作が並んだ幽霊図は左から応挙、その弟子であった長沢蘆雪、山口素絢によるもの。応挙はときに「足のない幽霊図の創始者」と言われ、掛軸形式でのこうした図像で大人気を博した。弟子たちも、人気の画題を真似つつ、表情などには独自性を加えているのがわかる。実際には17世紀後半にすでにこうした幽霊の表現がみられるが、世の中に定着させたのはまさに応挙の影響力がなせる技だ。

偉大な画家、円山応挙。その足跡における重要作品が紹介される本展では、この巨匠の魅力ををまた新たな視点から発見できるのではないだろうか。

なお、同館は通常、月曜日が休館だが、本展期間中は10月27日(月)を除き、月曜日も開館しているという。じっくり見たい人は、月曜日が狙い目かもしれない。

円山応挙 青楓瀑布図 皆川淇園賛 天明7(1787) サントリー美術館 【展示期間:9月26日~10月26日】

福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)

福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。