1969年6月28日にニューヨークで起きた「ストーンウォールの反乱」をきっかけに始まり、毎年6月に行われている「プライド月間」。世界各地で、多様な性のあり方を祝福し、LGBTQ+の人々の権利についての啓発を促す様々なイベントや活動が実施されます。
ここでは、6月に開催中の展覧会のなかから、セクシュアリティやジェンダーをめぐる多様な視点に触れ、考えるきっかけを得られる展覧会を紹介します。
ゲームエンジン、AI、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などの最新テクノロジーを活用した現代アートを紹介する本展。12組のアーティスト、クリエイターが生物学、地質学、哲学、音楽、ダンス、プログラミングなど多領域とコラボレーションして制作した作品が集い、テクノロジーと人間の精神性や身体性の関係などを探る。参加作家のひとり、ジャコルビー・サッターホワイトは、既成概念を「クィア化」する手段を通して、アナログ技術とアフロ・フューチャリズム、アフリカ系アメリカ人の解放のビジョンを融合させ、テクノロジーが黒人とLGBTQ+のコミュニティにもたらす可能性を探っている。本展では、仏教における「慈悲の瞑想(メッター・プレイヤー)」を題材にしたマルチ・メディア・インスタレーションを発表している。
会場:森美術館
会期:2月13日〜6月8日
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1970年後半から1999年にバンコクで死去するまで、約30年にわたってペインティングやコラージュ、ドローイング、人形など様々な作品を制作した長谷川サダオ。ポップな色調でエロティックな男性像を描いた作品で知られ、日本だけでなく海外でもゲイ雑誌の表紙を多数手がけた。近年その人気が再燃している。本展はそんな長谷川が手がけた雑誌の原画を目にすることのできる貴重な機会となる。
会場:成山画廊
会期:4月3日〜6月7日
1986年台湾生まれのマンボウ・キーは、家族、ジェンダー、セクシュアリティ、クィア・アイデンティティといったテーマを、写真、映像、インスタレーションを通じて多角的に描き出すアーティスト。思春期に父が秘蔵していたビデオテープを偶然見つけた体験をきっかけに制作した《Father’s Videotapes》を2019年に発表。本展はその過程で父から譲り受けた50本を超えるビデオテープのなかから見つけた「居家娛樂」という言葉を出発点に構成されている。自身のカミングアウトについて綴ったエッセイを発表した與真司郎や、Netflixの恋愛リアリティ番組『THE BOYFRIEND』で注目を集めたUsakをモデルとしたポートレイトも初公開される。キュレーションは東京都現代美術館の藪前知子。
会場:PARCO MUSEUM TOKYO
会期:5月30日〜6月9日
2006年に写真集『IN MY ROOM』で第31回木村伊兵衛写真賞を受賞して以降、セクシュアリティやジェンダーに関わる写真だけでなく、写真という媒体の特殊性を問い直す多様な表現を展開してきた鷹野隆大。ユミコチバアソシエイツによる展覧会シリーズ「写真を問う」の一環で行われる本展では、西洋絵画の伝統的な主題である横臥像を参照した「ヨコたわるラフ」をはじめ、「立ち上がれキクオ」「ヒューマンボディ 1/1」など、男性の裸体を捉えたシリーズを展示。写真における身体表現のなかでの主体の位置を再考する展覧会になるという。なお東京都写真美術館では、6月8日まで鷹野の大規模個展「総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」が開催されている。
会場:ユミコチバアソシエイツ
会期:5月27日〜7月12日
平塚らいてうが1911年に雑誌『青鞜』に寄稿した記事の一節からタイトルを引用する本展は、日本という国家が歴史的に、あるいは現在進行形で女性の身体とセクシュアリティをどのように管理してきたかを問い直す試み。依然として構造的な不平等や性差別的な価値観が根強く残る日本の現実に応答し、制度化された女性の身体への管理に対して異議を唱えるものだ。キュレーターを務める山本れいらと、嶋田美子、みょうじなまえという3人の女性アーティストの作品を通して、女性が従属的な役割に縛られない社会の再想像を鑑賞者に問いかける。
会場:KOTARO NUKAGA Three
会期:5月17日〜6月14日
陶を中心に、感情や記憶、願望といった内面的な動きを、物質として提示する実践を行ってきた川井雄仁。本展のタイトルは、1998年に放送された同名テレビドラマから引用されており、メインビジュアルの写真は川井が自らを「父」として配置し、食卓を囲む家族風景を演じたものだ。展覧会では、1990年代後半から2000年初頭のポップカルチャーによって作家自身に刷り込まれた「理想的な家族像」を見つめ直し、40代を迎えた自身の現在と対比させながら、陶による表現の新たな展開を試みる。
会場:KOTARO NUKAGA(天王洲)
会期:5月17日〜6月28日
性的マイノリティーへの差別や偏見が現在よりも強かった1980年代に、自身がゲイであることをオープンにして創作活動を行なっていたキース・ヘリング。山梨県の中村キース・へリング美術館で行われる本展では、ヘリングの彫刻制作の出発点となった作品のひとつである1985年の大型彫刻《無題(アーチ状の黄色いフィギュア)》を日本で初公開する。また人権問題の解決や「エイズ」予防啓発、反戦・反核などを訴える社会的なメッセージを作品に込めたヘリングの多彩な活動から、とくに子供たちのための作品やプロジェクトに光を当て、キース・ヘリング財団から寄贈を受けて新収蔵するポスターや写真、映像資料を通して紹介する。
会場:中村キース・へリング美術館
会期:6月7日〜2026年5月17日