「創造的な出会いのためのテーマ別展示」会場風景
東京・渋谷のUESHIMA MUSEUMにて、新たなコレクション展「創造的な出会いのためのテーマ別展示」が6月21日から開催される。
UESHIMA MUSEUMは、事業家・投資家の植島幹九郎が2022年2月に設立した現代美術コレクション「UESHIMA MUSEUM COLLECTION」を展示する美術館として、2024年に開館。「同時代性」を核とした、700点を超える国内外の現代アート作品コレクションから、様々なテーマに沿って選ばれた作品が展示されている。
第2回コレクション展となる本展では、2025年3月まで金沢21世紀美術館の館長を務めていた長谷川祐子がキュレーションを担当。2階の常設部分を除き、これまでの展示内容をほぼ刷新して公開する。
「UESHIMA MUSEUM COLLECTION」を、「植島さんのいまを生きる感性がすごく活かされているコレクション」と評する長谷川は、今回の展示にあたり、地下から5階までの6フロアでそれぞれテーマを設定。若手作家の作品も積極的に収集する植島の「若い作家と世界的に活躍する作家の作品を一緒に展示することで、その作家の位置付けが見えるようにしたい」との要望も反映させながら構成したという。
エントランスに置かれた、ライアン・ガンダーによる本物の猫と見紛うアニマトロニクスの常設作品に出迎えられながら1階の最初の展示室に入ると、「都市とポップ」をテーマに、ポップアートを中心とした展示空間が広がる。
新たに開かれたガラス窓から渋谷の街並みが見える最初の展示室には、バンクシーや奈良美智の作品、アンディ・ウォーホルの「スープ缶」、トーマス・シュトゥルートが渋谷を写した写真などが並ぶ。
奈良が浮世絵版画を借景に見立てた「In the Floating World」シリーズは全部で16点あり、今回は風景の作品をピックアップして紹介。作品の間には、葛飾北斎の浮世絵が並び、時を超えた出会いを見せる。
つづく展示室では、ダミアン・ハーストの蝶やスカルの紙の作品と山口歴のスカルの彫刻、それぞれ「ガール」を描いたバンクシーとタカノ綾の作品、無数の花の笑顔が描かれた村上隆の作品と草間彌生のドットやネットの作品、花や動物が描きこまれたできやよいの作品など、複数の作家を関連づけながら紹介している。
地下展示室のテーマは「宇宙と重力」。地球へのまなざしや宇宙への憧れ、エコロジカルな感性の高まりなどを背景にしながら、「重力」という根源的な力に着目する。土などを素材に物質が神聖な存在へと変容する瞬間を「ギャラクシー」と名づけたボスコ・ソデイの大型作品、ロバート・ロンゴによる「惑星」シリーズなど、壮大な宇宙観が展開される。
またシアスター・ゲイツの「タール・ペインティング」の隣には、長谷川が「この作品が持つ“重力”がシアスターの作品の持つ“重力”と同じだと思った」と語るゲルハルト・リヒターの初期のフォトペインティングの作品を並べて展示。人間の瞳の虹彩と日食をそれぞれモチーフにしたマーク・クインの絵画も展示室で強い存在感を放つ。
2階はアーティストごとに展示スペースが設けられた常設展示のフロア。ここに今回新たに追加されたのが、ジェームズ・タレルのインスタレーション《Boris》だ。タレルの作品は定員3名の小さな部屋に展示されており、椅子に座って移ろいゆく光と色の変化と向き合いながら作品とじっくり対峙することができる。
またこのフロアの中心スペースにはゲルハルト・リヒターの作品群で構成される空間が広がり、物質とイメージの境界を静かに照らし出す。このほかこれまでも常設展示されていた、シアスター・ゲイツやオラファー・エリアソン、名和晃平、村上隆×ヴァージル・アブローらの作品も引き続き見ることができる。
3階は「幾何と内省のコンポジションー常温の抽象」をテーマに据え、幾何学的な抽象絵画により「常温」の内省的な空間を演出。
ここでは、これまで絨毯張りだった床が白いフロアに一新され、開放的な展示室に。アグネス・マーティンの作品と、2024年のヴェネチア・ビエンナーレでカナダ館代表作家だったカプワニ・キワンガのタイルの作品《Estuary》を中心に展示を構成したという。
ドイツのアーティスト、アンセルム・ライルの作品は一部がアルミホイルや鏡になっており、見る者の姿が映り込む。またもうひとつの展示室で異彩を放っているのは、四葉のクローバーをドローンが見つけ出すというスプツニ子!の映像作品だ。
4階は多様な国籍のアーティストたちによる、個々の生や歴史の語りが展開される「ナラティヴと色彩のアウラ」。
ロベルト・パレ、ワハブ・サヒード、モーゼス・ザイボーアらアフリカにルーツのある作家による鮮やかな色彩と大胆な構図で構成された絵画作品が多く並ぶいっぽう、その間にベルナール・フリズによる色彩そのものの気配をとらえた抽象作品や鏡面のような黒い画面が印象的な油野愛子の作品を挿入する展示構成には、「絵画とは何かを考えてほしい」とのねらいがある。
逆さまに書かれた「Alive!」の文字が目を引く絵画は、史実に着想を得ながら「あり得たかもしれない」歴史画を描くシカゴ出身の画家ウマー・ラシッドが、アンシャン・レジームをモチーフに描いた作品。色彩と多様な個人的、歴史的なナラティヴが交差する展示空間になっている。
最上階5階のテーマは「物質と感情のエンタングルメント」。
展示室中央に浮かんだ、赤やピンクの球が連なる立体作品は、ジャン=ミシェル・オトニエルによる《Pink Lotus》。ガラスに包まれた球が、窓ガラスから入る光に照らされ、官能的な輝きを放っている。このフロアでは、愛と欲望やリビドーと記憶などをめぐる複雑な情動が「物質とイメージの絡まり」として表現されており、マーク・クインのピンクの流動的な物質が溢れ出るような彫刻《Thick Pink Nervous Breakdown》といった作品もその「絡まり」を感じさせる。
また奥の展示室には、こちらも「愛」を主題とした水戸部七絵の作品を展示。直立したベッドに分厚く塗り重ねられた油絵具で、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの「ベッド・イン」が表現されている。床に置かれたレコードプレイヤーからはランダムに彼らの音楽が流れる。
世界的なアーティストから気鋭の若手まで、国内外の多彩な作品で構成される本展。階層ごとに異なる感覚に誘われながら、渋谷の一角で、観客と作品、作品同士の「創造的な出会い」を体験してみてはいかがだろうか。