「Petra Collins: fangirl」会場風景
先日、韓国を訪れた際に、大林美術館(Daelim Museum)で開催されている写真家ペトラ・コリンズの個展「Petra Collins: fangirl」を見ました。
グッチやアップル、ナイキといったブランドとの仕事をはじめ、オリヴィア・ロドリゴやビリー・アイリッシュなど、数多くのセレブリティとのコラボレーションを手がけてきたペトラ・コリンズ。35mmフィルムで撮影された、ドリーミーでどこか毒のある世界観の写真作品で知られ、日本の雑誌でも撮影を手がけるなど、日本にも多くのファンを持つ写真家です。BLACKPINKやNewJeansを写した雑誌のフォトストーリーが話題になったことを記憶している人も多いのではないでしょうか。
本展は、作家にとって初となる美術館での個展。写真、映像、インスタレーション、ファッション作品、雑誌、資料など500点以上の作品を通して、彼女の芸術世界を多角的に紹介する内容となっています。
展示は3フロア、3つのチャプターで構成されています。最初の章「Becoming Petra」では、ダンサーになる夢を断たれ、15歳の頃に独学で写真を始めたコリンズの初期作品が展示されています。2010年代前半、寝室や学校、少女たちの身体といった、ティーンエイジャーの日常の断片を青くメランコリックに記録した「The Teenage Gaze」シリーズや、妹のアナらを被写体とした「Coming of Age」シリーズなど、生々しく親密な作品群が並びます。
第2章「The Gaze」では、作家自身のgaze(視線)を通して演出された、様々な女性の姿が登場します。日常と幻想が溶け合うような世界観のなかで、自身の身体や記憶をもとに制作したマスクやシリコン製のレプリカなどを用い、女性を主人公とした物語性のある作品群が展開されています。ここでは、ドラマ『ユーフォリア』で知られるアレクサ・デミーがエロティックなおとぎ話を演じる《Fairy Tales》シリーズも写真と映像を通して見ることができます。
そして最終章「New Nostalgia」では、フロア全体に大小様々な家や部屋のようなインスタレーションが展開されます。広告やMV、雑誌など、領域を横断して活動してきたコリンズのヴィジュアル感性を、空間として体験できる構成です。構造物の内部には、作家自身10代の頃の写真やベッドルームのセット、インスピレーション源などが断片的に配置され、まるで彼女の頭の中に入り込んだかのような感覚を覚えました。
なかでも印象に残ったのは、家の窓のような構造にライトボックスで写真を浮かび上がらせたり、ネオンサインとともに大判写真を並べたりと、世界観を重視したセノグラフィーでした。とりわけ最終章では、ドールハウスの中に人形と小さな写真を配置した展示や、壁一面に並ぶポラロイド、セレクトショップのラックのようにハンガーに吊るされた写真群など、作品そのものを見せるというよりも、作家の美学を空間全体で伝えようとする姿勢が際立っていたように思います。さらに驚くべきことに、本展は入場無料。写真撮影もOKです。

展覧会タイトルの「fangirl」は、自分自身が自分の「最初のファンガール」になる、という作家のマニフェストに由来しています。もともとコリンズは、Tumblrに発表していた写真がタヴィ・ゲヴィンソンが編集長を務めた『Rookie』で紹介されたことをきっかけに広く知られるようになりました。本展は、インターネットを起点にキャリアを築き、雑誌やSNSを通じてイメージが拡散し、いまやインスタグラム時代の視覚文化に大きな影響を与える存在となった彼女の歩みをたどるものです。他者の視線に回収されることなく、自らの視線で独自のイメージを築いてきた作家のヴィジュアル世界を体感できると同時に、「ファンガール」という、ともすれば軽んじられがちな存在と、その感情や熱量を肯定しようとする姿勢も感じました。
当初は昨年12月31日までの開催予定でしたが、好評につき会期延長が決定し、現在は2月15日まで開催されています。韓国を訪れる予定がある方は、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。