会場風景
江戸時代の絵師・葛飾北斎の表現に改めて光をあてる展覧会「HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」が、東京・京橋のCREATIVE MUSEUM TOKYOで開幕した。会期は9月13日〜11月30日。音声ガイドはKing & Princeの髙橋海人が担当。
葛飾北斎は90年間の生涯で、約3万点もの作品を手がけた多作の作家。その卓越した表現は海を超え、印象派の画家をはじめとするヨーロッパの人びとにも大きな影響を与えている。
本展では浦上コレクション全面協力のもと、代表作『冨嶽三十六景』や、初公開となる幻の肉筆画16図を含む約300点の作品が集結。北斎作品の表現の独創性を「現代のアニメやマンガのルーツ」として、新たな視点からとらえ直すような機会となった。
展覧会の冒頭では、北斎が曲亭馬琴とタッグを組んで作った「読本(どくほん)」が紹介される。馬琴はあの蔦屋重三郎に見出された江戸の売れっ子作家であり、ふたりは江戸の街に「読本ブーム」を巻き起こした。ここでは『椿説弓張月』『新編水滸画伝』そして『釈迦御一代記図会』の挿絵が展示されている。
浦上コレクションのオーナー、浦上満はこの展示室の見どころについて「驚くべきことに、北斎の作品は拡大してもその迫力が落ちない。拡大したイメージを通じて北斎の表現の細やかさに注目してもらえれば」と語る。ふたつの異なるサイズでイメージを見比べることで新たな気付きが生まれるはずだ。
続けて展示されるのは、北斎の代表作《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》(通称:大波)だ。こちらは『富嶽三十六景』の中でもっとも有名な作品だが、同フロアにはほかの「波」や「水」をテーマとした作品も並んでいた。
次の展示室からは、現代のマンガやアニメにも通ずる表現力・発想力が、北斎の”しわざ”としてとらえ直されていく。集中線・効果線、爆発や閃光、波や風などの自然現象、時間の経過、妖怪や幽霊、略画と一筆画、ギャグ描写、アニメ風原画など、北斎の革新的な表現が様々な切り口から紹介されていた。
中でも興味深く感じたのは少年マンガに登場するようなエフェクト表現。炎の燃え盛る様子や、スピード感を表す効果線の付け方が、約200年ほど前から考案されていたことに驚かされる。
こちらは、作家が64年もの歳月をかけて完成させたライフワーク、『北斎漫画』の全15編が並ぶ展示室。「大波」に象徴されるダイナミックな構図と超絶技巧の描写はもちろんだが、ユーモアや遊び心あふれる人物画や、怪奇・妖怪の表現、精巧な博物誌など、作家の創造力の豊かさを感じられるフロアだ。
同作品の中には、マンガでいうコマ割りに類似した表現も見られる。『北斎漫画 11編』では大砲から煙を上げて飛び出した弾丸がページを飛び越えて海魔という海魚に命中するように描かれるなど、時間の経過が視覚的に表現されていた。
また、アニメーションの原型であるパラパラマンガのような表現にも注目したい。内覧会では「北斎がもし現代に生きていたらアニメを作っているのでは」(浦上)というコメントが出るほど、人物がいまにも動き出しそうに描かれている。本展では、『踊独稽古』『北斎漫画』より「雀踊り」と「武芸(棒術)」をアニメーション化して上映するコーナーもあった。
最後に紹介されるのは、色彩豊かな美人画や、知られざる最晩年の肉筆画、そして北斎絵本の傑作『富嶽百景』の全3編102図だ。
80代前半に「毎日、新たに魔物を蹴散らす」ことを願い、日課として獅子や獅子舞などを描き続けた北斎。200図以上残されると伝えられるこの『日新除魔図』のうち、その存在を知られることがなかった16図が新たに発見され、今回初めて公開されている。
展覧会を締めくくる『富嶽百景』は、単色の薄墨摺(うすずみずり:墨を淡く摺り重ねて陰影や奥行きを表現する技法)の絵本。富士山を様々な角度から色鮮やかに描き分けた『富嶽三十六景』に対して、富士信仰や人びとの暮らしなどの要素を盛り込んだ作品となっている。
現代的な視点から北斎をとらえ直すとともに、そのニッチな一面にも触れられる本展。展示内容はもちろん、グッズも大充実なのでこちらもあわせてチェックしてみてほしい。編集部おすすめグッズはこちら。
井嶋 遼(編集部インターン)