「キアフ・ソウル(Kiaf SEOUL、Korea International Art Fair SEOUL)」会場風景
9月4日、韓国・ソウルのCOEXで国際アートフェア「キアフ・ソウル(Kiaf SEOUL、Korea International Art Fair SEOUL)」が開幕した。会期は9月7日まで。
24回目の開催を迎える「キアフ・ソウル」。2022年からは大型アートフェア「フリーズ・ソウル」が同じCOEX内で行われるようになり、多くのVIPやプレス、アートファンで賑わう。今年の「キアフ・ソウル」には、20を超える国から175のギャラリーが出展。Art of Nature Contemporary(香港)、The Bridge Gallery(パリ)、hide gallery(東京)、h-u-e(釜山)、021Gallery(大邱)、Primo Marella Gallery(ミラン)、LWArt (東京)、NUMBER 1 GALLERY(バンコク)、Window Fourteen(ジュネーヴ)、yoonsungallery (大邱)、Galerie Zink(ゾイバースドルフ)、SISTEMA GALLERY(モスクワ)など、22ギャラリーが初参加した。
筆者は、9月3日のプレビューデーに訪れた。いくつかのブースをピックアップして紹介したい。
韓国の現代美術シーンと世界のアートワールドをつなぐハブとしての役割を掲げる本フェアでは、出展ギャラリーの半数以上を韓国国内のギャラリーが占め、その数は120を超える。パク・ソボやキム・チャンヨルといった巨匠から新進気鋭のアーティストまで、幅広い表現に触れることができる。
ソウルのKukje Galleryはスイス出身のウーゴ・ロンディノーネのソロショーを展開。積み重ねられた石の緊張感と、中央にかけられた円形の作品が湛える太陽のような明るさが、慌ただしいフェア会場に静けさをもたらしていた。
Gallery Hyundaiは、韓国単色画の画家チョン・サンファや、多様な素材を横断する実験的な作品で知られるイ・ソンテクといった20世紀韓国を代表する作家に加え、現在ニューヨークのホイットニー美術館で個展が開催されている韓国系アメリカ人の現代アーティスト、クリスティーン・サン・キムの作品などを展示。
Hakgojae Galleryでは、キム・ジェヨンによるセラミックのドーナツがフォトスポットのように人を呼び寄せていた。ここでは人気俳優ハ・ジョンウの新作ペインティングも並ぶ。大邱のGallery Shillaは、ソウルを拠点とするアート&テクノロジーコレクティヴ「Kimchi and Chips」のソロショーを実施。Sun Galleryは、韓国における先駆的な女性の抽象画家イ・チュンジの作品をフィーチャーし、若手から中堅作家まで幅広い画家たちの作品とともに展示している。
また韓国の伝統的な素材や技法を用いた現代作家の作品も多く見られた。Lee Hwaik Galleryのキム・ドクヨンは真珠層を使い「借景」をテーマとした絵画を制作。1993年生まれのボー・キムは、韓紙にアクリル絵の具や砂を重ねて独特の物質感を生み出し、BHAKのブースで存在感を示していた。
日本からは7ギャラリーが参加した。ユミコ チバ アソシエイツのブースには、イ・ウォノや金氏徹平らの作品が並ぶ。「キアフ・ソウル」には今回で4回目の参加となるが、ディレクターの宮中由紀によれば、ローカルなギャラリーから国際的な大きなギャラリーまで出展する歴史のあるフェアであり、作家の動向を知ることができるというのが、フリーズではなくキアフに出展している理由のひとつだという。
最近までソウルでも拠点を展開していたSH GALLERYでは、Backside works.の作品がオープンと同時に完売。ディレクターの朴ソネは、「アジアのなかで韓国市場がより大事になってきている。キアフは歴史が長いですし、韓国のお客様に日本の作家さんを紹介したいという思いで参加している」と話した。
新進アーティストやギャラリーのためのプラットフォーム「Kiaf PLUS」にて初参加となったhide galleryは、2023年に「LOEWE Craft Prize」ファイナリストに選出されたガラス作家・井本真紀をはじめ、忠田愛、吉田紳平の作品を展示。会場でも一際ミニマリスティックなブースを展開した。
ディレクターの川田修は、「アジアできちんと売っていきたいと考えていて今回初めて韓国に出展しました。僕らはまだ始めて3年なので、規模感や出展費用、距離など総合すると、キアフはちょうど良い」と語る。
会期中には、日韓国交正常化60周年を記念した特別展「Reverse Cabinet」も開催されている。ソウルのイルミン美術館のチーフキュレーターで、キュレーションプラットフォーム「WESS」の共同ディレクターでもあるユン・ジュリと、東京のオルタナティヴスペースThe 5th Floorのディレクター、岩田智哉がキュレーションが手がけ、「収集」と「展示」を再考するものだ。韓国のアーティスト、ドン・ソンピル、ヨム・ジヘ、ジョン・グムヒョン、オ・カイと、日本のアーティスト、竹村京、髙橋銑が参加し、会場の様々な場所で作品が展示されている。
サブカルチャーに影響を受け、アニメなどのフィギュアやグッズを収集するドン・ソンピルは、アニメーションのキャラクターの誇張され様式化された顔の表情に着目。顔の特徴は、個人の運命や政治的志向、文化的な時代精神をも象徴するものであるとして、様々な物が取り付けられた顔の立体と、フィギュアなどを並べたキャビネット、映像作品などを発表した。
竹村京は2000年から、壊れた日用品の破片などを収集し絹糸で縫い合わせ、“崩壊の瞬間”を一時的に留めるシリーズを続けている。本展では、オンラインで購入した茶碗やソウルの骨董市で見つけた仏像などを対象として、その真性に関する問いを投げかける。
韓国でもっとも歴史の長い国際アートフェアである「キアフ・ソウル」。出展ギャラリーの関係者は、いずれも世界的なアート市場の低迷の影響について言及していたが、それでも本フェアは、韓国国内外のギャラリーや作家が一堂に会し、最新の動向や価値観が交錯する場となっている。広い会場を歩けば、作品を通じて可視化される“いま”を感じ取ることができるだろう。