フィンセント・ファン・ゴッホ 画家としての自画像 1887年12月-1888年2月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」が、9月12日に東京都美術館で開幕した。会期は12月21日まで。
世界中でいまもなお愛されている画家、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890)。日本では、「大ゴッホ展」やポーラ美術館で開催中の「ゴッホ・インパクト―生成する情熱」など、2025年から27年にかけてゴッホをテーマにした大規模展が相次いで企画されており、今年は「ゴッホ・イヤー」とも呼ばれている。
わずか37年という短い生涯を送ったゴッホだが、その作品は今日までどのように受け継がれてきたのか。本展は、ファン・ゴッホ家が受け継いできたファミリー・コレクションをテーマに据え、30点超のゴッホ作品とともに、作家の死後、どのように作品が守られ、現在のように広く公開されるに至ったのかをひもといていく。
ゴッホの死後、弟テオが遺作を相続したが、テオも兄の半年後に他界。その後はテオの妻ヨーが膨大な作品群の管理を引き継ぎ、展覧会への出品や作品売却を通じてゴッホの芸術的評価確立に尽力した。息子フィンセント・ウィレムはコレクション散逸を防ぐためフィンセント・ファン・ゴッホ財団を設立し、1973年のファン・ゴッホ美術館開館を実現させた。
会場では、ファン・ゴッホ美術館の全面協力により、油彩画を中心とした30点以上のゴッホ作品を展示。27歳で画家を志したゴッホが、ハーグで3年間素描技術を磨いた初期から、ニューネンでの2年間の油彩修業、そして1886年のパリ移住で新しく現代的な様式を確立していく過程をたどることができる。
とくに注目は、1888年の南仏アルル移住以降の作品群だ。この時期にゴッホは革新的な画家へと変貌を遂げ、サン=レミの療養院で過ごした1年間、そして最後のオーヴェール=シュル=オワーズでの3ヶ月間に数々の傑作を生み出した。
ゴッホ兄弟が収集した浮世絵500点超のコレクションも見どころのひとつ。1886年のパリ時代に浮世絵と出会ったゴッホは、大胆な画面構成や鮮やかな色面など従来にない表現を獲得し、自然や人間に対する見方も大きく変化させた。南仏プロヴァンスに理想化した日本の面影を求めたゴッホの心境も興味深い。
さらに日本初公開となる貴重な手紙4通では、18年間にわたるフィンセントとテオの兄弟の絆を見ることができる。また、ポール・ゴーガンやエミール・ベルナールら前衛芸術家たちとの作品交換で得た同時代作品も併せて展示される。
展示は5章構成で、コレクション形成から美術館設立、ヨーによる戦略的な作品売却、そして現在に至るまでのコレクション充実の歩みを紹介。展覧会の後半では最新の映像技術を用いたイマーシブコーナーも設置され、肉眼ではとらえきれない細部からゴッホの名作を体感できる。
わずか10年の画業で絵画200点余り、素描・版画約500点を残したゴッホ。その芸術を支え、後世に伝えた家族の物語とともに、改めてその創作の軌跡に迫る展覧会となっている。
灰咲光那(編集部)
灰咲光那(編集部)