公開日:2025年8月29日

万博の記憶がつなぐ、坂本龍一と大阪。「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」(VS.)レポート

大阪では初となる大規模企画展が開幕。会期は8月30日〜9月27日

坂本龍一+高谷史郎 LIFE–fluid, invisible, inaudible... 2007

坂本龍一と大阪の知られざる接点を探る

坂本龍一の、大阪では初となる大規模企画展「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」が、8月30日からグラングリーン大阪内のスペース「VS.(ヴイエス)」で開催される。会期は9月27日まで。

2023年にこの世を去った坂本龍一。2024年から2025年にかけて東京都現代美術館で開催された展覧会「坂本龍一|音を視る 時を聴く」が34万人超を動員し、同館の史上最多来場者数を記録したことも記憶に新しい。

今回の展覧会は、坂本が若き日、1970年の大阪万博で受けた衝撃を出発点とする。当時18歳だった坂本は、「人類の進歩と調和」をテーマに掲げた大阪万博で様々な音楽やアートに触れた。各パビリオンでは前衛的な電子音楽が鳴り響き、坂本が敬愛する武満徹の《クロッシング》《四季》や、高橋悠治《慧眼》、湯浅譲二《スペース・プロジェクションのための音楽》、そして西ドイツ館ではカールハインツ・シュトックハウゼンによる《Spiral》が連日上演を行っていた。「ペプシ館」では中谷芙二子による霧の彫刻、鉄鋼館ではクセナキスの《Hibiki Hana Ma(響き・花・間)》、フランソワ・バシェによる音響彫刻の展示も行われ、坂本の創作活動に大きな影響を与えた。

バシェ音響彫刻 池田フォーン 1970年制作/2010年修復

若き日の坂本が出会ったバシェ音響彫刻

展示は9つのセクションから構成。中心となるのは、普段は大阪府万博記念公園「EXPO'70パビリオン」に展示されているバシェの音響彫刻だ。

1970年の大阪万博において、鉄鋼館のプロデューサー・武満徹は彫刻家のフランソワ・バシェを招聘し、1960年代にフランソワとその兄ベルナールが開発した音響彫刻「バシェ」を制作した。万博でこの音響彫刻に出会った坂本は、2016年にふたたび出会い直し、以降、バシェ音響彫刻を演奏・録音する機会を得て自身の作品に取り入れていた。その試みは2017年のアルバム『async』に結実し、最晩年に制作した劇場作品『TIME』にも活かされた。

バシェ音響彫刻 川上フォーン 1970年制作/2013年修復

会場では、万博のために制作された音響彫刻《川上フォーン》《高木フォーン》《池田フォーン》と、2018年に東京藝術大学のバシェ修復プロジェクトチームとマルティ・ルイツ・カルラによって坂本のために制作された音響彫刻《Après Baschet RS001》を展示。2020年に坂本が実際にこれらの音響彫刻を演奏する様子を記録した映像もあわせて上映され、その音色に触れることができる。

バシェ音響彫刻 高木フォーン 1970年制作/2013年修復
Après Baschet RS001 2018

またソニーの立体音響技術「360 Reality Audio」を駆使し、坂本がスタジオで確認した環境と同じ音環境を再現した展示室では、坂本が生前にバシェの音響彫刻を演奏した音源『Ryuichi Sakamoto: Playing the Baschet』を初披露。暗闇のなかに設置された29のスピーカーが観客を包み込むように音への没入体験に誘う。ここでは、坂本が自ら乃木坂のソニー・ミュージックスタジオで360 Reality Audio制作に立ち会った最後のアルバム『12』も聴くことができる。

坂本龍一『Ryuichi Sakamoto: Playing the Baschet』『12』 360 Reality Audio展示風景

会場では、1970年前後の坂本による手書きのスコアやメモ、藝大時代の資料、スナップ写真、本人が保管していた大阪万博のチケットなども、《坂本龍一アーカイブ:1970-》として展示されている。

高谷史郎、アピチャッポン・ウィーラセタクンらとの協働によるインスタレーションも

さらに、東京都現代美術館での「坂本龍一|音を視る 時を聴く」や、2024年にGinza Sony Parkで行われた「sakamotocommon GINZA」で公開された作品も複数見ることができる。

音響彫刻と同じホワイエに展示されたグランドピアノは、実際に坂本が長年愛用していたもの。坂本による過去の演奏データをもとに、『aqua』『energy flow』など5曲が自動演奏される。

Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2025 – D

坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible...》は、1999年初演のオペラ『LIFE』の音と映像を再構成したインスタレーション。グリッド状に天井から吊るされた9つの水槽のなかに霧が発生し、そこに映像が投影される。『LIFE』で使われた素材を中心とした映像と音は400以上のシークエンスとなって組み合わされ、「始まり」と「終わり」のない無限の変化を生み出す。

坂本龍一+高谷史郎 LIFE–fluid, invisible, inaudible... 2007

坂本と他アーティストとの協働の試みとしては、このほかに坂本龍一+Zakkubalan《async–volume》、坂本龍一+アピチャッポン・ウィーラセタクン《async–first light》を展示。

Zakkubalanは、空音央とアルバート・トーレンによるユニット。《async–volume》は24台のiPhoneやiPadから構成される作品で、暗い展示室に浮かぶ小窓のようなスクリーンには、坂本がアルバム『async』制作時に多くの時間を過ごしたニューヨークのスタジオ、庭、リビングなどが映し出されている。そこにアルバムの音素材をミックスしたサウンドと雨音などの環境音・生活音が重なり、本人が不在ながら、坂本の痕跡や気配を感じさせるポートレイトのような作品が生まれた。

坂本龍一 + Zakkubalan async–volume 2017
坂本龍一 + Zakkubalan async–volume 2017

《async–first light》は、制作中だった『async』とのコラボレーションを坂本から依頼されたウィーラセタクンが、同作から選んだ2曲を組みあわせ、音楽にあわせて、自身の親しい人たちに渡したデジタルハリネズミカメラで撮影された私的な映像を編集したもの。ウィーラセタクンの監督映画『MEMORIA メモリア』に関連し、同作の主演俳優ティルダ・スウィントンが眠りに落ちていく様子を映すサイレント作品《Durmiente》とあわせて、2篇の映像作品がひとつのスクリーンで上映される。

アピチャッポン・ウィーラセタクン《Durmiente》(2021)、坂本龍一 + アピチャッポン・ウィーラセタクン《async–first light》(2017)
坂本図書 分室

1970年大阪万博を接点として坂本と大阪をつなぐ「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」は、大阪ならではの企画。入場は事前予約制となるので、訪れる際は公式サイトをチェックしよう。

*「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」会場で買えるグッズは以下をチェック

後藤美波(編集部)

後藤美波(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。